研究課題
ファイトプラズマ(Phytoplasma属細菌)は、植物の篩部細胞内に寄生する病原微生物であり、世界中で多くの農作物に被害を与えている。ファイトプラズマは,ヨコバイなどの昆虫により媒介され、動植物宿主間を水平移動する「ホストスイッチング」により感染を拡大する。本研究は、ファイトプラズマのホストスイッチングの分子機構を解明し、その防除技術の確立のための基盤構築を目的とする。今年度は、前年度に条件検討を行ったファイトプラズマDNAチップを用いて、マイクロアレイ解析を行った。DNAチップに搭載するプローブは、我々が解読したCandidatus Phytoplasma asteris OY strainのゲノム情報に基づいて設計し、各遺伝子に対するプローブ長は300 bpとした。また、リアルタイムPCRにより、マイクロアレイによる結果の妥当性を検証した。その結果、感染植物と感染昆虫において4倍以上発現量が変化していた遺伝子が約300個見出された。これらの結果により、ファイトプラズマが自身の遺伝子発現を変化させることにより、異なる生物界の宿主に適応していることが改めて強く示唆された。ファイトプラズマがコードするまた、病原性に関わると推測される18個の分泌タンパク質遺伝子について詳細に調べたところ、これらのうち5遺伝子は、昆虫宿主よりも植物宿主に感染している時に4倍以上発現量2つの転写因子(rpoD、およびfliA)のうちrpoDは昆虫宿主において発現量が高く、fliAは植物宿主において発現量が高いことを明らかとなり、これらの転写因子が法ストスイッチングに関わる発現を制御していると考えられた。が高く、植物感染時に重要な役割を持つ遺伝子であることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
今年度は、ファイトプラズマ転写因子の発現解析、および植物・昆虫感染時に特異的に発現する遺伝子群の同定を目的としていたが、これらの目標は概ね達成されている。ファイトプラズマの全ゲノム塩基配列により、ファイトプラズマはRpoDとFliAという2種類の転写因子をゲノム中に持つことが分かっていたが、今年度の解析により、2つの転写因子(rpoD、およびfliA)のうちrpoDは昆虫宿主において発現量が高く、fliAは植物宿主において発現量が高いことを明らかとなった。これらの結果から、rpoD、およびfliAの両転写因子がホストスイッチングに関わる発現を制御していると考えられ、次年度以降のさらなる解析の基盤とする。また、ファイトプラズマDNAチップを用いたマイクロアレイ解析により、植物あるいは昆虫感染時において、発現量の異なる遺伝子を約300個同定した。これらの遺伝子群には膜輸送に関わるトランスポーターや代謝系の遺伝子が含まれており、当初の予定通りホストスイッチングに重要な働きをする遺伝子群を特定することができた。また、ファイトプラズマは宿主の細胞内に寄生するため、分泌タンパク質や膜タンパク質が病原性に関わると考えられている。本研究により、植物・昆虫感染時において発現量の異なる分泌タンパク質遺伝子や膜タンパク質遺伝子を同定することができたことは、病原性の分子機構を解明する上でも大きな成果であった。
今年度の解析により、ホストスイッチングに関わる遺伝子群を特定することができたことから、今後は予定通り宿主側の遺伝子発現解析を行い、ファイトプラズマ感染が宿主に与える影響について調査していく予定である。ファイトプラズマは、植物に萎縮・叢生・黄化・花器官の葉化など、形態異常を伴うユニークな病徴を引き起こすのが特徴である。しかし、ゲノム解析の結果、既知の病原性因子は見出されず、病徴誘導の分子メカニズムは未だ謎に包まれており、本研究が病原性分子機構解明の端緒となることが期待される。
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