研究課題
ファイトプラズマ(Phytoplasma属細菌)は、植物の篩部細胞内に寄生する病原微生物であり、世界中で多くの農作物に被害を与えている。本研究は、ファイトプラズマのホストスイッチングの分子機構を解明し、その防除技術の確立のための基盤構築を目的とする。当該年度は、ファイトプラズマ感染に伴う宿主側の遺伝子発現変動について解析を行った。ファイトプラズマに感染した植物は様々な病徴を示すが、特に花が葉になる「葉化」や、花から若芽が出現する「つき抜け」などのユニークな病徴を引き起こすことが知られている。被子植物の花は一般に、がく、花びら、雄しべ、雌しべの4つの独立した花器官からなり、植物細胞がどの花器官になるかは、ホメオティック遺伝子と呼ばれる5種類の遺伝子(A、B、C、D、E遺伝子)の組み合わせで決まると考えられている。OY-Wファイトプラズマ感染ペチュニアの花芽全体より抽出したRNAを用いて花芽分裂組織決定遺伝子の発現量を測定した結果、OY-Wに感染した花芽では健全の花芽に比べて、顕著にかつ有意に減少していた。この結果から、ファイトプラズマの感染により花芽分裂組織決定遺伝子の発現は抑制され、花序の形成不全が起こることが示唆された。続いて、花器官ごとにRNAを抽出して花のホメオティック遺伝子の発現量を測定した結果、萼片、花弁、雌蕊では、それぞれの器官形成に必要なAクラス、Bクラス、Dクラスの遺伝子が健全ペチュニアと比較して有意に発現減少していた。これらの結果から、OY-Wファイトプラズマ感染によるホメオティック遺伝子の発現変動は花器官ごとに異なり、葉化症状を伴う花器官の形態異常は、その器官形成に必要なホメオティック遺伝子が発現抑制によって引き起こされることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
当該年度は、ファイトプラズマ感染に伴う宿主側の遺伝子発現変動を明らかにすることを目的としていたが、その目的はおおむね達成されている。本研究により、ファイトプラズマ感染植物におけるホメオティック遺伝子群の発現量を花器官ごとに詳細に調べた結果、葉化が見られる花器官ではその器官の性質を決めるホメオティック遺伝子の一部が有意に発現減少していた。例えば、葉化が見られたがくでは、がくの形成に必要とされるA、E遺伝子のうち、A遺伝子の発現が抑制されていた。一方、同じく葉化の見られた花びらでは、花びらの形成に必要とされるA、B、E遺伝子のうち、A遺伝子は抑制されておらず、B遺伝子の発現が抑制されていた。このように、ファイトプラズマは花器官によって制御する遺伝子が異なるという複雑な発現制御を行っていることが新たに明らかになり、これは予想外の成果であった。
昨年度の解析により、病原体側のホストスイッチングに関わる遺伝子群を特定し、また今年度は宿主側の遺伝子発現変動を明らかにできたことから、今後は予定通り病原体-宿主間の相互作用について調査していく予定である。ファイトプラズマは宿主の細胞内に寄生することから、分泌タンパク質や膜タンパク質は直接的に宿主制御を担う病原性因子であると考えられる。今後は、ファイトプラズマ分泌・膜タンパク質に焦点を当て、植物形態を変化させる病原性因子を同定する予定である。
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