研究課題
カイコBombyx moriは、桑葉のみを食餌とする単食性の昆虫である。桑葉にはデオキシノジリマイシンなどの糖類似アルカロイドが多量に含まれており、通常の動物には毒性を示す。カイコは、β-フルクトフラノシダーゼを中腸で高発現することにより、桑葉を食餌として栄養を摂取できるようになったと考えている。この仮説を検証するため、カイコに近縁でありながらクワではなくイチジクを寄主とするイチジクカサンTrilocha varians(Tv)とテンオビシロカサンErnoltia moorei(カイコガ科)(Em)のスクラーゼ遺伝子について解析を進めた。TvとEmのβ-フルクトフラノシダーゼ遺伝子はカイコと相同性が高いにもかかわらず、発現量が相対的に少ないことが判明した。さらに、次世代シークエンサーを用いた中腸トランスクリプトームのデータを分析したところ、カイコ中腸では、β-フルクトフラノシダーゼ遺伝子だけでなく、2種類のα-グルコシダーゼ遺伝子も多く発現しており、イチジクカサンとテンオビシロカサンのα-グルコシダーゼ遺伝子の発現量よりも多かった。イチジクカサンやテンオビシロカサンにクワを与えたところ、食下したが、発育することはできず、やがて致死した。しかし、クワの葉を剪断して水中で乳液を洗い出した葉を与えたところ、ある程度生存し成長した。クワ乳液に含まれる糖類似アルカロイドが、主たる成長阻害因子と予想される。カイコがその毒性を克服している理由は、上記のとおり、β-フルクトフラノシダーゼ遺伝子とα-グルコシダーゼ遺伝子の両者が高発現することにより、アルカロイド存在下でも糖を分解吸収することであると予想される。β-フルクトフラノシダーゼ遺伝子の転写調節領域の配列をカイコとTv/Emの間で比較すると種間差異が存在した。
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http://staff.aist.go.jp/t-fukatsu/SGJShiraada.html