木造住宅や木橋等の外構材は、腐朽等の生物劣化によって本来の強度を日々失っていく可能性をもつ。本研究は、木材が腐朽による劣化で強度を失っていく過程を、コンピュータ上でシミュレーション可能な方法の確立を目指すものである。 本年度は、木材における腐朽強度劣化の進行過程を数値モデル化するために必要な基礎実験を中心に据えて研究を実施した。既存文献の調査からは、木材の劣化進行過程を詳しく検討したものは少なく、また、本研究に直接流用出来るような、単純化可能で、かつ、時系列で進行度合いを定式化できるデータを報告しているものはなかった。 文献から得られるデータでは、木材内部の詳細な強度低下の進行を明らかにするには不足であるので、強制腐朽実験を実施した。試験に用いた樹種はベイツガで、試験体の寸法は20mm×20mm×100mmとした。劣化試験チャンバーで、オオウズラタケとカワラタケを用いた腐朽試験を行い、一定腐朽期間ごとに試験体を取り出し、試験前後の重量減少率を測定した。また、X線スキャナを用いて、デンシトメトリーを行い、密度分布の変化を測定した。 その後、腐朽試験体の各部から、小さな試験体を採取し、引っ張りならびに圧縮試験を行い、シミュレーションに必要となる、各時間経過後の縦方向と横方向の弾性定数、ならびに強度を測定した。これら実験結果から、密度減少率と残存強度との関係を求め、両者の関係を定式化した。密度の減少から推定される強度と、実際に測定された強度は菌種によって適合度が異なることがわかった。 また、これらの関係式を利用して、拡張個別要素法(EDEM)を用いて単純な梁中に腐朽が進展していき、最終的に自重で崩落する過程をシミュレーション可能なことを示すことができた。
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