本研究は、D-セリン調節の生理的意義、および調節異常が神経変性疾患に与える影響を明らかにすることを目的としている。本年度は、まず、生理的意義の検討として、D-セリン合成酵素セリンラセマーゼの結合因子の探索を行ったところ、MALDI-TOFFにてglyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase(GAPDH)を同定した。セリンラセマーゼはGAPDHと結合し、活性を顕著に上昇させることから、糖代謝と神経伝達との密接な関連が示唆された。また、病理的側面の研究から、2次元HPLCを使用して神経変性疾患モデルにおいてD-セリン量を測定したところ、パーキンソン病、アルツハイマー病モデルのいずれにおいても有意な変化は認められなかったものの、筋萎縮性側索硬化症モデル動物の脊髄において顕著なD-セリン上昇を確認した。このメカニズムを明らかにするため、合成系および分解系それぞれの寄与を評価したところ、分解の低下に伴うD-セリン上昇が優位であることが明らかとなった。また、臨床サンプルにおけるD-アミノ酸の測定意義を明らかにするため、健常人ボランティアから体液を回収し、基準値設定を行い、疾患識別値設定のための基盤作りを行った。次年度は、これらのそれぞれを発展させ、D-セリンの生理的意義や病理的意義を明らかにしていく予定である。
|