麻疹ウイルスは強い免疫抑制を起こすことが知られているが、その詳しいメカニズムは分かっていない。麻疹ウイルスの受容体であるSLAMを発現するSLAMノックインマウスとI型インターフェロン受容体欠損マウスを交配させた遺伝子改変マウスに麻疹ウイルスを感染させ、ウイルス感染が免疫系の機能に与える影響を観察した。その結果、ヒト麻疹患者で見られるようなTリンパ球数の減少、Tリンパ球増殖反応の抑制、抗体産生の低下、Th2タイプサイトカインIL-4および抑制性サイトカインIL-10の増加、接触皮膚炎の抑制が本マウスで再現できた。マウス体内リンパ組織におけるリンパ球の大きな再分布や調節性T細胞の増加は明らかではなかったので、これらが免疫抑制の原因であるとは考えられなかった。一方、リンパ節ではアポトーシスが亢進していたにも拘わらず、リンパ球数に減少は見られなかった。このことは、アポトーシスによるリンパ球数の減少を補充するために、末梢血からリンパ節にリンパ球が移動することにより末梢血リンパ球減少が起こっている可能性を示唆した。抗IL-10受容体抗体によりマウスを処理しておくと、麻疹ウイルス感染による接触皮膚炎の抑制は起こらなくなったが、それ以外の免疫抑制には影響はなかった。以上の結果から、本遺伝子改変マウスは麻疹ウイルスによる免疫抑制の優れた動物モデルになることが明らかになった、今後は、本マウスを用いてさらに免疫抑制の詳細なメカニズムを解明する予定である。
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