麻疹の病態を解明するために、麻疹ウイルスの受容体であるSLAMを発現するノックインマウスを用いて感染実験を行った。これまでに、SLAMノックインマウスをI型インターフェロン受容体(IFNAR)ノックアウトマウスと交配することにより、麻疹ウイルスが免疫系の細胞に感染し、リンパ球の減少、T細胞増殖反応の低下、抗体産生の低下、接触過敏反応の低下などヒトで見られるような免疫抑制が再現されることが判明した。免疫抑制が起こるメカニズムを調べるために、卵白アルブミンを認識するT細胞受容体を発現するトランスジェニックマウス(OT-IIマウス)をSLAMノックイン・IFNARノックアウトマウスと交配し、感染マウスにおけるCD4+ヘルパーT細胞、樹状細胞の機能を解析した。その結果、CD4+ヘルパーT細胞、樹状細胞両方の機能に抑制が見られ、それらが抗体産生低下の原因となっていると考えられた。ウイルス感染後に抗原(卵白アルブミン)で免疫する一次応答とは異なり、卵白アルブミンに対して既に免疫があるマウスに麻疹ウイルスを接種しても二次抗体産生には影響がなかった。細胞種特異的モノクローナル抗体を用いて、マウスからCD4+T細胞、CD8+T細胞、B細胞を除去した後に麻疹ウイルスを感染させると、CD8+T細胞を除いた時のみ体内のウイルス量が増加した。したがって、CD8+T細胞がウイルス排除に最も重要な役割を果たしていると考えられた。これらのマウスモデルでは、ウイルス感染や免疫抑制にもかかわらず、マウスが何らかの症状を示すことはなくウイルスは排除される。マウスにおけるウイルス増殖を促進するために、マウスIFNに対抗できるセンダイウイルスC蛋白質を発現する麻疹ウイルス感染系の構築を現在進めている。
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