麻疹ウイルスは、SLAM、nectin 4を細胞受容体としてそれぞれ免疫細胞、上皮細胞に感染する。しかし、まれにSLAMやnectin 4を発現していない神経細胞に持続感染して亜急性硬化性全脳炎を起こす。われわれは、膜融合に関わっているF蛋白質の変異により膜融合能が上昇した麻疹ウイルスは、SLAM、nectin 4を発現していない細胞にも感染できることを明らかにした。また、このような膜融合能が上昇したウイルスは、ヌードマウスや生後10日のハムスターへの脳内接種で野生株ウイルスと異なり中枢神経系で広汎に伝播することを明らかにした。したがって、麻疹ウイルスの神経細胞感染には、F蛋白質変異によるウイルスの膜融合能亢進が重要な役割をしていると考えられる。 麻疹ウイルスは、I型インターフェロン(IFN)系を欠損させないと受容体発現遺伝子改変マウスでも効率良く増殖できない。これは、麻疹ウイルスはヒトのウイルスなのでマウスのIFN系を阻害する能力を持たないためである。そこで、マウスIFNを抑制する機能を持つセンダイウイルスC蛋白質遺伝子をloxP配列で挟んだコンストラクトを導入したトランスジェニックマウスを作成した。このマウスは、Cre リコンビナーゼ発現組換え麻疹ウイルスが感染した細胞でだけIFNが抑制され、ウイルスの増殖が促進される。本マウスと受容体発現遺伝子改変マウスを交配させたマウスは、自然感染にきわめて近い優れた動物モデルである。
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