前年度には、微量の血清サンプルからのRNA抽出及び低密度アレイによる定量的マイクロRNA測定に関する実験条件の最適化を完遂し、さらに健常人血清を対象に解析を進めた。それらの進捗を受けて、膵臓癌40症例の血清を対象にマイクロRNAの網羅的発現解析を進め、健常人血清においては検出限界以下であり、一方膵臓癌症例においては高頻度に検出される1種類のマイクロRNAと、逆に健常人でのみ検出される3種類のマイクロRNAの同定に成功した。また、健常人と膵臓癌症例の双方で発現が検出されるが、それらの平均値が有意差を示すマイクロRNAについても探索を行い、健常人に比して膵臓癌症例で2倍以上高い或いは低い発現を示すマイクロRNAとして、それぞれ6種類と5種類を同定した。このうち、3種類のマクロRNAについては、癌における平均値が健常人に比して4倍以上高かった。さらに、これら3種類のマイクロRNAについては個々にTaqMan RT-PCR解析による検証を行い、良好な再現性を持って健常人と膵臓癌症例間に高い有意性(1×10^<-9>以上)を持つ差異が存在することを確認した。 血清中に存在する蛋白に関する網羅的な定量発現解析に関しては、本年度は膵臓癌マーカー候補タンパク質の網羅的発現情報の取得を進め、一度の試料調整により約3000-5000種類のタンパク質に関して比較定量が可能なシステムを確立した。さらに、前年度に最適化した開発ワークフローに従って、血液中マーカー候補タンパク質の特定を進めつつあり、すでに膵臓癌及び正常主膵管組織の新鮮凍結組織から抽出したタンパク質を解析試料とした網羅的タンパク質発現プロファイリングを進めて、約4000種類のタンパク質の発現情報を取得し、癌と正常組織間に平均+2SD以上の大きな発現差を認める80種類のマーカー候補タンパク質の存在を明らかとした。
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