研究課題/領域番号 |
21249038
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
三善 英知 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (20322183)
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研究分担者 |
寶學 英隆 奈良先端科学技術大学院大学, 学内共同利用施設等, 教授 (50314323)
中村 祐 香川大学, 医学部, 教授 (70291440)
鎌田 佳宏 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (30622609)
新崎 信一郎 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (60546860)
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研究期間 (年度) |
2009-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 糖鎖 / 生活習慣病 / 予防マーカー / ELISA / データベース / 脂肪肝 / IgG |
研究概要 |
糖鎖はタンパク質の翻訳後修飾を担う重要な生体分子の1つで、がんや炎症と深く関わりをもつ。種々の疾患に伴う糖鎖の変化は、疾患マーカーとして臨床応用されている。本研究では、糖鎖解析技術を用いて、新しい生活習慣病の予防マーカー開発の基礎的検討と血清を用いた大規模studyを行なう。 2010年度から開始した1800人の健診受診者の検査情報と血清の保存を続けた(データベース化)。ある糖鎖マーカーの異常値を示した脂肪肝の健診受診者に関しては、年度毎の血清収集と詳細な解析を行った。脂肪肝の中には10%程度肝硬変に進行するNASH(Non-alcholic steatohepatitis)が存在するため、それらを鑑別可能な糖鎖関連マーカーの開発に成功した。また従来から腫瘍マーカーをとして取り上げて来たFucosylated haptoglobinは、NASH患者の病理学的な異常(balooning hepatocyte)と関連していることが明らかになった。 ガラクトース欠損IgGを検出可能なレクチン抗体ELISAを開発し、健診受診者で検討したが炎症性腸疾患ほどの顕著な差は認められなかった。このアッセイ系に関しては、更に感度の高いものを開発する必要性がある。当大学で大規模な研究を行っている双子研究の血清でpreliminaryな検討を行ったところ、ガラクトース欠損IgG量の変化に遺伝的な要因は少なく、環境因子が大きいことがわかった。また、ノックアウトマウスを用いて、ガラクトース欠損IgGの病態生理学的意義を検討した。 糖転移酵素GnT-Vの遺伝子改変マウスを用いて、GnT-Vの病態生理学的意義を明らかにし、様々な生活習慣病に関与する可能性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度に計画した4大テーマの中で少なくとも2つは、予定以上の成果が得られた。具体的には、脂肪肝の予後を予測できそうな糖鎖マーカーが発見できたことである。脂肪肝は健診で指摘される異常として最も頻度が高い。また脂肪肝から進展すると考えられるNASHは今日の肝臓学会でも最も大きな研究テーマの1つで、その原因解明と鑑別マーカーの開発が多くの研究室で競われている。血中糖タンパク質Mac2-BPは、これまでのマーカーや血液生化学データと相関せず、最も診断効率が高い単一のNASH/脂肪肝の鑑別マーカーであることがわかった。さらに、NASHに最も特徴的な脂肪に伴う肝細胞の変成を、血液中のフコシル化ハプトグロビンが反映していることを見いだした。フコシル化ハプトグロビンは、膵がんや大腸がんの肝転移のマーカーとして私達が発見したものだが、その産生機序がNASHと共通している点が非常に興味深い。 健診データベースの作成は、当初から困難が予測されたが、アムスニューオオタ二クリニックの山田医院長のご協力により、非常に立派なものができた。また同クリニックの健診受診者にはリピーターが多く、我々が開発したMac2-BPやフコシル化ハプトグロビンは、実際に有用性の高い疾患予防マーカーとして検証するための貴重なデータベースができたと言える。 糖転移酵素GnT-Vは古くから、がん化やがんの転移に関与することで注目されてきたが、そのノックアウト・トランスジェニックマウスの解析から種々の疾患(皮膚科疾患、動脈硬化など)にも関与することがわかった。さらに、老化との関係を示唆するデータも出て来ている。本研究課題は、病態検査学の応用研究だけでなく、その基盤データを出すための基礎研究でもあると考えているので、こうした研究成果に大変満足している。
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今後の研究の推進方策 |
現状でうまく行っている研究に関しては、そのまま継続する。ただ、キットの種類が増えてくると予算の問題から、もう少しテーマをしぼるか、対象数を減らす必要がある。 予防マーカーとしての有用性を本当の意味で検証するためには、より長期的な研究が望まれる。できればprospective studyも行いたいと思うが、現状の科研費では3-5年なので、つないでいかなかえればならない。また、データベースの構築はある程度成功したと思うが、それをより効率的に応用する情報科学の専門家や技術が今後必要と思う。 ガラクトースIgGのレクチンー抗体ELISAの開発は成功したのだが、健診受診者などの軽度な異常を発見するだけの感度を得られなかった。この問題に関しては、ほかの大型予算により技術革新を考え、新しいキット開発を目指す。そして、そのキットができれば、改めて今回作成したデータベースを活用したい。
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