研究概要 |
現在の環境由来化学物質曝露は、食品由来の多種類かつ低濃度の混合曝露である。メチル水銀、ポリ塩素化ビフェニルなどの残留性有機汚染物質(POPs)は、魚介類からの曝露が多く、その脂溶性・難分解性という性状から排泄されにくく、経胎盤あるいは母乳に移行し感受性の高い児への影響が懸念されている。そこで、メチル水銀やPOPsといった曝露が母子移行に与える影響について検討することを目的とする。当該年度は曝露油選定の後、マウスおよびモルモットを使用した動物実験を行った。混獲により得た歯クジラ類の脂皮6種類から油を抽出後、POPs分析を行った。その中で最も汚染度の高い油をPOPs曝露油とし、対照群として大豆油および汚染度の最も低いクジラ油を使用した。マウスの繁殖実験では、POPs曝露の高低、メチル水銀曝露の有無、クジラ油か否かの関係から、対照群(大豆油)、大豆油+メチル水銀、POPs低汚染油、POPs低汚染油+メチル水銀、POPs高汚染油、POPs高汚染油+メチル水銀の6群設定した。曝露方法は精製飼料のAIN93G(妊娠・泌乳用)に含有される大豆油を抜いた粉末に、それぞれ該当する油を混ぜ曝露飼料とした。POPs高汚染油に含有されるp,p'-DDEの10%に相当する量のp,p'-DDE-d8体を添加した飼料又は油を作製した。出産日、離乳時に解剖を行い、各臓器のPOPs分析を行った。生後3日目に仔数5-6匹に揃えた。離乳前発達試験を生後7日目から、生後4週齢から神経行動学試験を行った。モルモット実験では、胎児期と授乳期曝露の母乳への移行を比較するため、生後2,6,10,14日目に母乳を採取した。対照群には大豆油を、POP曝露を在胎35-42日目から1週間に1度(計4回)の曝露を妊娠中に、出産後は生後2,6,10日目に曝露実施した。生後14日目POPs分析の結果、胎児期にPOPs曝露を行った母乳中PCB濃度は7900pg/g-wet、p,p'-DDE濃度110pg/g-wet(d8体は10)、授乳期にPOPs曝露,した場合は12000pg/g-wet、p,p'-DDE濃度870pg/g-wet(d8体は85)となった。p,p'-DDEのd8体はp,p'-DDEと同様に分布し、分布率算出の良い指標となると考えられた。
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