研究概要 |
現在の環境汚染物質曝露は、食品由来の多種類かつ低濃度の混合曝露である。メチル水銀、ポリ塩素化ビフェニルなどの残留性有機汚染物質(POPs)は、その脂溶性や難分解性という性状から排泄されにくく、経胎盤あるいは母乳に移行し感受性の高い児への影響が懸念されている。そこで、メチル水銀やPOPsといった曝露の母子間移行について検討することを目的とした。当該年度は、昨年度までに実施した発達試験、神経行動学試験の総括ならびに、動物実験検体のPOPs分析および解析を実施した。マウスの繁殖実験では、POPs曝露の高低、メチル水銀曝露の有無、クジラ油か否かの関係から、対照群(大豆油:ACL)、大豆油+メチル水銀(AMM)、POPs低汚染油(WCL)、POPs低汚染油+メチル水銀(WMM)、POPs高汚染油(WPO)、POPs高汚染油+メチル水銀(WMP)の6群設定した。これまで得られたPCB全異性体分析の結果から、総PCB濃度の60~70%相当となる15種の異性体(#28、#74+#61、#99、#118、#138、#153、#170、#180+#193、#187+#182、#194、#196+#203)に限定し分析を実施した。曝露飼料には、p,p'-DDEの10%に相当する量のp,p' -DDE-d8体を分布率算出の指標とするため添加した。その結果、どの臓器においてもd8体はp,p' -DDEの10%に相当する蓄積濃度であり、d8体はp,p' -DDEと同様に分布し、分布率算出の良い指標となると考えられた。また仔マウス脳内の15種PCB異性体合計の平均(n=3)は、生後0日目でWPOの母497、仔210ng/g-wetであり、WMPの母614、仔240ng/g-wetであった。離乳時のWPO母282、仔722ng/g-wetであり、WMPの母295、仔1,070ng/g-wetであった。離乳時の仔でのみ曝露間に有意差がみられ、WPOに比較してWMPで高値となった。生後3,7,10,12,14,16,21,28,35日の体重経過をみると、雌で有意に異なりAMM>ACL,WMM>WCL,WPO,WMPの順であった。雄では有意に異なるもののAMM>WMM>WMP,WPO,ACL>WCLの順となった。神経行動学的試験のオープンフィールド試験では、雌でACLに比較してWPOの移動距離が有意に減少していた。雄ではWCLに比較してWMP、WPOの移動距離が有意に減少していた。どちらもPOPs曝露が多い群で移動距離が減少していた。
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