研究課題
糸球体肥大は糖尿病性腎症の初期の特徴的な組織変化であるが、その細胞肥大はG1期細胞周期停止によってもたらされることが知られている。また肥満においても脂肪細胞肥大にサイクリン依存性キナーゼインヒビター(CKI)の関与が報告されている。OLETFラットを用いてPPARγアゴニストまたRXRアンタゴニストの治療効果を比較し、その作用メカニズムをメサンギウム細胞および脂肪細胞の細胞周期異常是正の観点から検討した。肥満と2型糖尿病の動物モデルであるOLETFラットを、コントロール群、PPARγアゴニストであるpioglitazone (PIO)投与群、RXRアンタゴニストであるHX531投与群に分けて糖・脂質代謝および糸球体病変を比較した。また、高糖濃度下で培養メサンギウム細胞にPIO、HX531を添加して、Laser scan cytometerにより細胞周期を解析し、CKIやこれを制御するMitogen- activated protein kinase (MAPK)の発現をウエスタンブロットで定量した。さらにLETO群、OLETFコントロール群、PIO群、HX531投与群の脂肪組織から成熟脂肪細胞を分離して細胞周期を解析し、培養脂肪細胞にPIO、HX531を添加してCKIやMAPKなどの発現についてウエスタンブロソトで検討し、メサンギウム細胞の結果と比較した。OLETFラットを8週齢から30週齢にわたって観察したところ、PIO投与群ではOLETF群と比較して著明な体重増加を認めたが、HX531投与群では体重増加が抑制されていた。PIO、HX531投与群の両群で、血糖値やHbAlc、血清中性脂肪・コレステロール値はOLETF群に比べて改善し、尿中アルブミン量の減少と、組織学的には糸球体肥大の改善を認めた。高糖培養下のメサンギウム細胞で認められるG1期細胞周期停止は、PIO、HX531添加により解除された。また高糖培養下では、CKIの発現を制御しているp44/42MAPK、p38MAPKのリン酸化が亢進し、p21cip1, p27Kip1の発現が亢進していたが、PIoやHX531の添加により、G1期細胞周期停止に関与するこれらの蛋白発現は両薬剤で同様に抑制された。一方、PIO投与OLETFラットの成熟内臓脂肪細胞ではM+late M期の細胞の比率が高いのに比して、HX531投与群ではGO+GI期の細胞が増加しており、培養内臓脂肪細胞にPIOやHX531を添加すると、前者が分化を促進するのに対して、後者は分化を抑制し、更にCKIやMAPKの発現が両薬剤では異なっていた。糖尿病性腎症におけるメサンギウム細胞および肥満における内臓脂肪細胞の細胞周期異常を明らかにし、その異常は核内受容体modulatorによって制御されることを示した。細胞種やその状態により、核内受容体modulatorは複雑に作用するが、細胞周期異常の是正が、肥満の改善と蛋白尿や糸球体硬化の抑制をもたらすことが期待される。
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