研究課題
遺伝子・細胞療法は、がんを含む多様な疾患に対する治療として有望な手法であると考えられている。しかし、臨床グレードの遺伝子導入ベクターの作製は海外に委託せざるを得なかったため、臨床開発に支障を来すことも多かった。このような状況を打開するため、Interleukin-12(IL-12)発現アデノウイルス・ベクターを自ら作製し、それを用いたIL-12遺伝子導入樹状細胞による癌免疫遺伝子治療の早期臨床試験につなげることを目指して研究を開始した。本年度は、改良型製造工程に基づきより良い品質の試薬を作製した。そして、この試薬が米国FDA(Food and Drug Administrations)の定めるGMP(Good Manufacturing Procedure)基準を満たすものか否かの品質検査を行うとともに、この試薬の特性を生かした臨床試験プロトコール原案を作成し、その前臨床安全試験についても検討を進めた。品質検査においては、プロトコールとして想定されている、樹状細胞を用いたex vivo法に使用する場合、Replication Competent Adenovirus(RCA)の混入がない試験薬であることが確認され、臨床研究に用いることが可能であることが判明した。前臨床安全試験に関しては、投与された遺伝子改変樹状細胞はリンパ系臓器以外への有意な遊走をしておらず、安全性について問題のないことが示唆された。また、IL-12遺伝子を導入した未熟樹状細胞を腫瘍内投与する際に惹起される全身的抗腫瘍効果をより強く発揮させるために、抗CTLA4抗体の併用療法を検討したところ、期待通り強い抗腫瘍効果が得られた。加えて、生体内においてアポトーシスに陥った腫瘍細胞を樹状細胞が貪食する機構において重要な働きを持つオプソニンの一種であるMFG-E8に着目し、この機能を阻害する抗体を用いて、特異的免疫反応をさらに増強する方法を検討した。また、ヒトMFG-E8に対するモノクローナル抗体も作製した。これらの成果を基に、腫瘍免疫機構を総合的に制御する新しい免疫療法の開発が可能となった。
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