平成21年度はSox9-EGFPマウスを用いて関節軟骨におけるSox9遺伝子の発現を解析した。Sox9遺伝子は生後マウス関節軟骨において恒常性に発現していた。半月板および側副靭帯・前十字靭帯損傷による外傷性変形性膝関節症マウスモデルをSox9-EGFPマウスを用いて作成したところ、手術後1週間目でEGFPの発現強度が有意に増強し、その後低下することが確認された。実際、Sox9遺伝子の発現の推移をリアルタイムPCRで確認したところ、やはり手術後1週間目でSox9遺伝子の発現は亢進し、その後低下することが明らかとなった。組織学的解析では、手術後1週間では関節軟骨の明らかな変性所見は認められなかったが、術後2週間目より関節軟骨表層のフィブリレーションをきたし、術後4週で関節軟骨の変性および骨棘形成が認められた。以上の結果から、変形性関節症の病態の初期では、関節軟骨においてSox9遺伝子の発現が一過性に亢進することが明らかとなった。Sox9遺伝子は、軟骨細胞外基質蛋白質であるII型コラーゲン、IX型コラーゲン、アグリカンなどの遺伝子の発現を直接誘導することが知られている。よって、変形性関節症発症初期のSox9遺伝子の発現亢進は、軟骨細胞による細胞外基質蛋白質の発現誘導による病態の抑止がなされていると考えられる。よって、関節軟骨にSox9遺伝子を過剰発現させたトランスジェニックマウスをCre/loxPリコンビネーションシステムを用いて作成し(CAG/floxmRFP1/Sox9/IRESEGFP ; Sox9-Cre)、生後、膝関節の靭帯および半月板切離により変形性膝関節症を惹起させ、病態の進行をSham手術群と比較検討した。組織学的解析では、Sham群と比べ、Sox9過剰発現群では明らかな変形性関節症変化の遅延が認められた。以上のin vivo解析より、Sox9遺伝子の関節軟骨における発現誘導は、変形性関節症の病態を改善し、また、発症を抑止することが可能であることが明らかとなった。
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