本研究は、東南アジア諸地域を対象とするフィールド調査と民族誌研究にもとづき、過去のさまざまな経緯に由来し、現在に累積する多様で雑多な規範や信念がどのような関係にあるかを、「複ゲーム状況」(矛盾し、対立する規範や信念が同時並行的に作用する事態)に焦点をあてながら明らかにすることを目的とする。 この目的を達成するために、研究代表者、連携研究者、研究分担者は、あらかじめ計画してあったインドネシア、マレーシア、フィリピン、台湾における調査地で数週間にわたり、複ゲーム状況と関連する所定のテーマでフィールドワークをおこなった。その後、この調査からえられた情報や知識を共有し、理解を深めるために、京都大学において2回の共同研究会を実施し、その内容について議論をおこなった。また、研究会では不足しがちな議論を継続的におこない、メンバー間のコミュニケーションを活性化するために、インターネット上に電子掲示場を立ち上げて、運用を開始した。 本研究では、東南アジア諸地域におけるフィールド調査をとおして、「複ゲーム状況」に関する具体的なデータの蓄積をはかる。しかし、本研究の意義は、こうした実証的な民族誌研究だけにあるのではなく、この作業をとおして、文化、社会、民族、地域などの空間的な境界をもつ体系や構造の概念にもとづいて措立されてきた、人類学的理解の対象を変容させ、それに見合う人類学の次世代型概念ツールの開発をおこなうことにある。
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