研究課題/領域番号 |
21255002
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
杉山 雅人 京都大学, 地球環境学堂, 教授 (10179179)
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キーワード | フブスグル湖 / バイカル湖 / エニセイ川 / 物質動態 / 生態遷移 |
研究概要 |
平成23年8月6日から28日にかけてロシアに渡航し、フブスグル-バイカル-エニセイ流域の中流域に位置するアンガラ川(11地点)とバイカル湖(15地点)の物理・化学・生物総合観測を行った。バイカル湖では、平成24年8月までの水温連続観測を行うために南湖盆の4地点でメモリー水温計を湖中に繋留した。また、湖風の連続観測のために、南湖盆西岸にあるバイカル博物館屋上に設置している風向風速計のデータ取得ならびに保守・点検を行った。その結果、次のことが明らかになった。 23年度のアンガラ川調査水域は、イルクーツクからブラーツクにかけてであり、アンガラ川がブラーツク湖に流入する河口域ならびにブラーツク湖沖域も調査した。このアンガラ川河口域で、溶存ケイ素濃度が顕著な変化を見せた。すなわち河口域でその濃度が急減し、いわゆる中途停滞水域でのシリカ欠損・貯留の典型的なパターンを示した。これに連動してクロロフィル濃度は増加した。現在、前年度に行ったバイカル湖へのセレンガ川流入河口域での調査と比較して、シリカ欠損・貯留の詳しい機構の解明を目指している。ブラーツク湖では、クロロフィルの濃度極大が温度躍層以下に見られるという興味深い結果も得た。 バイカル湖では南湖盆で物理・化学・生物指標の縦断観測を行った。湖風の連続観測の解析結果と合わせて、強風連吹-深層水湧昇の機構と水質・生物影響について解析を継続中である。 これまでに行ってきたバイカル湖バルグジン湾での沈降粒子束連続観測、ピコプランクトン群集変動調査の解析を進めた。その結果、湖水の温度上昇と連動して有機物画分の沈降粒子束が急増すること、ピコプランクトンは沖域と沿岸域での棲み分けが起こっていて、体内色素の異なる種がそれぞれに分布していることが明らかになった。これらの成果を平成23年10月にイルクーツク、陸水学研究所で開催されたBaikal Symposium on Microbiologyで発表し、強い関心を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
フブスグル湖上流からアンガラ川・エニセイ川合流点までを、研究期間の4年間で踏査するとした当初の計画通りに研究が進んでいる。24年度に計画するブラーツク湖流出点からアンガラ川・エニセイ川合流点までの調査で、全水域の踏査が終了する予定である。また、当初、予想した水の流下と停滞が数回に渡って繰り返される本水系は、いわゆるシリカ欠損・貯留ならびに物質動態と生態遷移の関連を解明するに適した水系であるとの考えは、22、23年度のバイカル湖、ブラーツク湖流入域でのシリカ濃度とクロロフィル濃度の連動変動の事象により端的に証明されつつある。
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今後の研究の推進方策 |
24年度が研究期間の最終年度であり、研究はほぼ順調に進行しているので、計画の変更はない。科学研究費補助金における研究期間終了後の本研究の推進については、興味深い結果を与えた湖流入域の綿密な再度の調査のために、再び科学研究費補助金の申請などを計画する。ロシアの税関基準・手続きの頻繁な変更のために、毎年、研究機材の持ち込みについて多大な労力を要し、無事な税関通過に神経を消耗している。このことはロシアを対象とする他の研究者についても同様である。海外学術調査ネットワークを通じて、改善に向けての働きかけを行いたい。
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