東南アジア地域の熱帯雨林の林冠にみられる節足動物群集の多様性と群集構造を詳細に解明するため、ボルネオ島マレーシア国サラワク州のランビル国立公園に展開する熱帯低地フタバガキ混交林において、今年度は以下の野外調査を実施した。昨年に引き続き、林冠を構成する約150本の高木の樹冠部において、林冠クレーンを用いたすくい網法と透明衝突板飛翔昆虫トラップ法(Flight intercept trap)によって、のべ年3回節足動物をサンプリングした。また、昨年に引き続いて、約50本の高木を対象に、着生植物とそれと共生するアリ類、および高木に茎を伸ばすつる植物と着生植物の空間分布を調べた。得られたサンプルのソーティングを進め、数量的なデータに返還して解析を進めた。また地上部において林冠の中層部や林冠ギャップの上層を構成するオオバギ属数種の樹上においてナナフシをはじめとする植食性昆虫をサンプリングして、それらの量と食草利用を調査した。 昨年度得られた結果をより一層強固に支持する結果が得られ、成果のいくつかを学術論文として公表した。樹上のアリ類群集の構造決定に、着生植物を巣場所とすることで優占的な一を占める少数のアリ種が大きな影響力をもつこと、開花の時期のみに個体数を増加させる一群の甲虫類が存在すること、林冠で得られる灯火飛来性のハムシ類・コガネムシ類の多くは個体数変動の季節性がきわめて乏しいことなどが明らかになった。これらの成果は、熱帯雨林の林冠における節足動物群集の構造や多様性についての理解を深めるうえで興味深い知見をもたらした。
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