研究課題
侵入害虫に対する導入天敵の評価を行うには、害虫の原産地における土着天敵の働きを知る必要がある。侵入害虫キムネクロナガハムシは、2つの系統アジア系統(インドネシア原産)とパプアニューギニア系統(PNG原産)の2つの形態では区別できない系統があることが明らかになった。そこで、本種の生物的防除の有効性を評価するために、2系統の原産地であるインドネシアとPNGで本種密度、ココヤシへの被害、天敵相について調査を行った。平成22年9月には、インドネシアのバリ島において調査した。その結果、本種は苗、低木、高木のいずれのココヤシの葉に被害が見られた。高木では、一部の木に被害が集中していた。また、バリ島ではアジアの侵入地では見られない本種の茶色型(背板が茶色)が採集された。さらに、卵寄生蜂2種(トリコグラマ、トビコバチ)、蛹寄生蜂1種が記録された。卵寄生蜂2種は雌性単為生殖であるため、ボルバキアによる感染が疑われた。平成23年3月に、パプアニューギニアのニューブリテン島で調査を行った結果、ココヤシはナーサリーの苗や低木に被害が集中しており、高木への被害はほとんど観察されなかった。また、寄生蜂はまったく採集されなかったが、本種が生息する葉に多数のハサミムシが観察された。以上の結果から、本種の2つの系統は生態が異なっており、PNG系統は苗や低木を攻撃するが、アジア系統は苗、低木だけでなく高木も攻撃することがわかった。高木も攻撃するアジア系統が東南アジアに侵入したため、そこでココヤシに大きな被害を出すようになったと推察された。今後、生態の異なる2系統に対する天敵の作用を明らかにする必要がある。