研究概要 |
本研究では,情報システムの利用者の主観的感情としての安心を,セキュリティや安全性(safety),信頼性を網羅する複合概念であるトラスト(trust)の感情部分を安心と位置づける.今後,質問紙調査等により,セキュリティや安全性等のトラストの各概念における安心の要因や構造を明らかにして行く.安心の要因や構造が明確になれば,情報社会におけるシステムやサービスの安心度合いという指標を作ることも可能となる.さらに,これらの安心の要因の望ましい応用である真の安心に関し,医療や災害時等緊急時において相手を安心させるコミュニケーション技術等について研究する.他方,望ましくない応用については虚偽の安心問題とし,情報社会の詐欺行為等について,何故,人を安心させてしまうのかについても分析し,その対策を考えて行く. 平成23年度は,今回の震災を機に,災害情報提供についての偽りの安心と,真の安心を考えた.虚偽の安心については,電子メールによる誤報に基づく信頼度の調査も研究室内で試験的に行った.知り合いの名前が差出人と誤信すると,差出人のアドレスを注意深く見ず,内容を信用してしまうことが判明した.真の安心については,特に放射能情報に着目し,試作として,主観的な放射能情報を提供し,実証実験を試みた.主観的な情報にも関わらず,4103件のアクセスを取得した.さらに,一昨年度作成した情報セキュリティについての安心感の質問紙調査を大規模に行い,統計分析を行い,情報セキュリティの知識のない利用者の安心感については,4因子解を得た. また,今回の震災での復旧支援活動を通し,偽りの安心と真の安心の応用分野として,災害発生直後から必要な当事者間の意思疎通である「災害コミュニケーション」という新たな研究分野を見つけた.今後,この応用を考えて行きたい.
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今後の研究の推進方策 |
情報セキュリティの知識のない利用者の安心については,新たな質問紙を作成し,大規模調査により,その要因が判明した.今までの調査での結果も踏まえ,それらが認知的トラストの要因の主観部分であることが明らかになった.それらの結果を,最近発表されたトラストモデルに適用し,安心モデルの構築も進めている.そこで偽りの安心と真の安心をどのようにモデル内で示すことができるかを考えて行きたい. 災害コミュニケーションを応用分野と捉え,これまでの成果をどのように反映させるかを検討する.偽りの安心については,フィッシングで使用されるメールの差出人アドレスに,別途研究を進めている,不快なインタフェースを利用した警報の対策も考えて行きたい.
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