研究課題/領域番号 |
21300071
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
北村 達也 甲南大学, 知能情報学部, 教授 (60293594)
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キーワード | 音声生成 / MRI動画 / X線マイクロビーム / 子音 / 弱化母音 / 皮膚振動 / レーザードップラ振動計 / schwa |
研究概要 |
本年度は子音を含む音声の発話運動解析に注力した. まず,MRI画像から声道断面積関数(声門から口唇まで引いた声道中心線に直交する断面の面積)を抽出するソフトウェアを開発した.このソフトウェアはオープンソースでパブリックドメインの画像処理ソフトウェアImageJのプラグインとして作成した.ImageJは米国国立衛生研究所(NIH)で開発されたソフトウェアである.このプラグインは本研究の成果として無料公開されている. 次に,動きの速い子音の発話運動を観測するため,超高フレームレートのMRI動画撮像法を開発した.この技術は,従来法で撮像したMRI動画と磁気センサ方式で計測した発話運動データを融合したもので,フレームレート250 HzのMRI動画を生成することができる.このフレームレートは従来法の3倍から4倍である. さらに,子音の発話運動解析を行った.有声・無声閉鎖子音を含む音声のMRI動画撮像を行い,得られたデータから舌の運動を計測した.舌形状を多項式近似し,舌の上下運動の時間軌跡を解析した結果,これらの子音の発話運動には違いがあることを明らかにした.このMRI撮像では同じタイミングでの発話を要求したにもかかわらず,/k/を発話する準備が/g/と比べて早く生じていた.これは,無声閉鎖子音において閉鎖形成時の口腔内圧力を高めるためではないかと考えられる. また,ウィスコンシン大学で構築されたX線マイクロビームデータベースを用いて,日米母語話者の発話運動を調査した.特に,shuwaと呼ばれる弱化母音に注目して舌形状を解析し,話者間の違いを明らかにした. この他,レーザードップラ振動計を用いて発話時の顔表面の皮膚振動計測を行い,世界で初めて発話時の皮膚振動速度のカラーマップを示すことに成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
従来のMRI動画のフレームレートを大きく上回る超高フレームレートのMRI動画撮像法の開発に成功し,子音を含む音声の発話運動を詳細に観測することができるようになった.また,MRI動画を用いて子音の発話運動を解析し,発音方法や調音位置の違いによる発話運動の違いを明らかにすることができた. この他,レーザードップラ振動計を用いた皮膚振動計測に世界で始めて成功したり,X線マイクロビームデータベースから日米母語話者の発話運動の違いを明らかにしたりするなど,研究計画時に予定になかった手法から成果を生み出している. これらのことから本研究は順調に進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
レーザードップラ振動計を用いた発話時の皮膚振動計測に関しては,今後,発話障害患者を対象とした発話訓練や声楽家を目指す学生の歌唱訓練への応用を目指して,別の研究費にて研究を継続する. また,X線マイクロビームデータベースを用いた,日本語母語話者の英語の発話運動解析は英語教育や音声学の分野で高い評価が得られたので,継続して分析を進める.磁気センサシステムNDI Waveを用いて新規データの計測も行っていく. MRI動画を用いた子音発話運動の解析に関しても,発音方法や調音位置の違いのみならず,方言による差も考慮に入れて研究を継続する.
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