研究概要 |
本研究では,人間の触覚メカニズムを考慮した柔軟な人工指を開発し,人間のタッチを実現することを目的としている.本年度も,昨年度から継続し,人工指関節への利用に向け,弾性体の飛び移り座屈を用いた閉ループ柔軟カタパルトや,可変剛性機構に関する検討を行った.また,サルの指断面標本に基づき指内部構造を詳細にモデル化し,有限要素法解析を行い,さらに繊維構造部分を単純化し,解析的および実験的にその力学的効果を検証した. サルの指断面標本において観察された膠原繊維をトレースする形で,表皮,真皮,膠原繊維を含む皮下組織,爪,骨からなる有限要素法解析用の3次元指断面モデルを作成した.なお,皮下組織において,膠原線維に囲まれた中には,実際は脂肪,血管,汗腺,パチニ小体等が存在することになるが,解析では,これらに物性値の違いは与えず,非常に柔らかい非圧縮性の弾性体が膠原繊維により小部屋に分けられている構造とした.解析の結果,繊維がない場合と比べ,繊維で囲まれた脂肪等の部分において,より皮膚深部にかつ広範に応力が伝搬することが確認できた.これは昨年度までの簡易モデルと同様の結果であり,実際の膠原繊維の分布に基づくモデルにおいても,応力を広範囲に伝搬する力学的効果が示せた.パチニ小体は皮下組織に分布し数は少ないが,こうした繊維による応力の深部への伝わりや全体への広がりから,皮膚表面の広範囲の刺激を受容することができると考えられる.本結果は,パチニ小体の分布や広受容野を支持する結果といえる.また,繊維による効果を抽出する目的で,柔らかい弾性体が硬い弾性体に囲まれ,複数個並んでいる単純モデルも作成して,有限要素法解析およびウレタンゲルを用いた実験により応力伝搬を調べた.その結果,硬い弾性体で囲まれた柔らかい弾性体の各々で応力集中が均等に起こり,繊維付き構造により応力が全体的に広く伝搬することが確認できた.
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