研究概要 |
本研究では,音楽療法において,触覚/嗅覚情報を利用する回想法を取り入れることで,個人でも継続的に使用できるシステムを提案し,日常生活の自立を促すことを目指す.23年度は,本研究で開発した演奏支援システムを認知症患者(協力者)に試用してもらった.本システムは,ユーザが歌いながら,椅子の肘掛に装備されたタッチパッドを叩くと,システムは歌っている箇所に合う伴奏を,叩くタイミングに合わせて奏でる.しかし,協力者には失語の症状があるため,音楽療法の専門家や実験者とともに,システムを利用したピアノ連弾を行った.協力者は指1本で任意の鍵を叩くことで,共演者のメロディに合わせた伴奏を奏でることができた.認知症患者を対象とした斉楽療法では,一般的に回想に導きやすい唱歌を利用することが多い.しかし,本実験の協力者はピアノ演奏の経験があったため,現在は指1本で打鍵することで精一杯であっても,ショパン作曲のピアノ曲において,意欲的に打鍵した. 触覚の提示に関する研究では,触覚情報の連信遅延に関する心理物理実験の結果に基づき,触覚提示デバイスの改良に取り組んだ.また,携帯型の触覚提示デバイスを,設置型(卓上型)の触覚提示デバイスに接続し,空中に浮かぶ球をつかんで割るというデモ機を製作した.この方式により,触覚提示デバイスの体感質量を軽減させた. 嗅覚の提示に関する研究では,アロマセラピーインストラクターに,認知症患者に対する香りの利用効果についてインタビューした.認知症患者は症状の進行とともに,香りを感じなくなることが知られているが,回想とのコラボレーションにより,香りを患者の誘導に対して有効に使える可能性が示された. 上述とは別に開発した音楽療法システムについて,国際会議(ICOST)で発表し,BEST MULTI-DISCIPLINARYPAPER AWARDを受賞した.このシステムは,認知症患者などが示す常同言語(同じ言葉を繰り返す)の症状に対して,適切な音楽を奏でることで患者を静穏化することを目的としている.
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