2009年度は「階層構造を持つ最適化とその応用」に関する多くの解説論文・招待講演の機会をいただいたこともあり、前半は、これまで申請者が開発してきたいくつかのアプローチを整理するとともに周辺の研究動向にも目を配り、位置づけをはっきりさせることにした。この過程で、非可微分凸最適化問題の主要な解法として最近注目されている「proximal forward backward splitting」や「Douglas-Rachford splitting」がいずれも問題の解集合を特別な非拡大写像の不動点集合として表現している事実に気がついた。一方、申請者が提案し、拡張をすすめてきた「ハイブリッド最急降下法」は非拡大写像や準非拡大写像の不動点集合上で微分可能な凸関数の最小化を実現したアルゴリズムである。これらのアイディアを組み合わせることにより、非可微分凸最適化問題の解集合上で微分可能な凸関数の最小化も実現できる。2009年度後半は、このアイディアを応用し、「不動点集合上で非可微分凸関数を最小化する問題」の近似解法を実現することを検討した。「ハイブリッド最急降下法の収束定理」は凸関数の勾配のリプシッツ連続性が要請されているため、非可微分凸関数をリプシッツ連続な勾配を持つ凸関数でうまく近似、これにハイブリッド最急降下法を滴用する方針が考えられる。申請者は、非可微分凸関数のMoreau-Yosida Envelopeがリプシッツ連続性と非可微分凸関数への一様収束を達成することに注目し、これにハイブリッド最急降下法を適用する方法を提案し、これをMIMO無線通信システムのアンテナ選択問題に応用し、有効性を明らかにしている。また、非可微分凸最適化問題の解集合に単調接近する非拡大写像を近接点写像を用いて構成し、スパースシステムの適応同定問題に応用し、その有効性を明らかにするなど、いくつかの適応学習問題の新解法を提案している。
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