研究概要 |
本研究の目的は,ヒトの身体パーツの動きに含まれる協調構造を解析・抽出し,それを利用して障害者等の動作補助を行なう方式を開発することである.本目的の達成に向けて以下の研究を行なった. まず,本研究課題において構築した非拘束身体運動計測システム(17の身体部位に設置した3次元姿勢センサのデータを統合し全身運動を再現・解析するもの)を用いて身体運動データの取得と解析を行なった.当初計画では,日常生活にわたって運動を長時間計測し包括的にデータを収集することを想定していたが,姿勢センサに内蔵された磁気センサが周辺環境(鉄を含む什器類など)の影響を受けることが判明したため,家具等の影響を受けにくい状況に限定して実験を行なった. 次に,本システムで得たデータを用いて身体パーツの動きの時間関係を分析した.具体的には,立位姿勢から左右に踏み出す動作に着目し,足動作と協調関係の強い他の身体パーツの動きを検出し,その関係を利用して踏み出し方向とそのタイミングを予測することに成功した.これは,ヒトの動作に先んじて補助器具を作動させるための基盤となる結果である. 下肢麻痺患者用の歩行補助システムにおいては,歩行器に3軸角度センサと加速度センサを,装着ロボット足底に小型力覚センサを設置して,転倒予防の制御機構を組み込んだ.次に,健常者に本システムを装着させて斜面での立位姿勢やつまずきへの回復動作の実験を行なった.その結果,ロボットの制御系が上肢の動きに協調して,足首角度を調整し直立姿勢をサボートすること,また,足底の圧力情報に従って遊脚の上昇または下降のパターンを選択し,転倒することなく歩行を継続できることを確認した. 上記の実験的研究と並行して,運動表現に関する数理的検討として疎表現に着目して研究を行なった.特に,機械学習分野で研究が大きく進展しているベイズ統計と疎表現に関する問題について最適化法を検討した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
被験者の全身の動きを拘束せずに計測できるシステムが完成し,実験場所にとらわれない種々の運動計潰が可能になった.ただし,磁気センサを利用しているために周辺環境の影響を受けて誤差が生じる場合があり,日常生活の広範囲の身体運動データを取得する点では当初目標を十分に達成していない.一方で,本研究の最終目標である下肢麻痺患者の動作補助システムの実現に向けた装置の製作および実験は順調に進んでおり,全体としてねおおむね順調に進展しているものと考える.
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今後の研究の推進方策 |
全身運動計測については,次年度以降も引き続き,計測実験を行なってデータ取得を進め,身体運動の協調構造を土台としたヒトの動作予測システムとして研究をまとめる計画である.下肢麻痺患者補助については,歩行動作そのものよりも,車椅子から歩行器へ,あるいは,歩行器から車椅子への移動における運動補助のニーズが高いことを踏まえて,研究の最終目標を被験者の起立・着座動作の補助に変更して,その動作を補助するシステムの感性に注力する予定である.
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