本研究は、言語性コミュニケーションが不可能で、かつ行動や表情からは感情をくみ取ることができない患者のQOL向上を目指して、脳活動計測から快・不快感情を理解することができる"マインド/ブレイン-ヒューマン・インターフェース"の開発を目的とする。このシステムを開発するためには、感情の神経基盤を明確にする必要があり、感情の機能的神経解剖については、電気生理学的手法を用いた動物実験や病巣研究に加えて、最近はPETやfMRIなどによる神経機能イメージング研究によって明らかにされてきた。しかし、これらの神経機能イメージング法は、装置の特性から感情の神経機構解明に必ずしも最良の方法とは言えず、また、医療・介護の現場で手軽に用いることができない。一方、近赤外線スペクトロスコピー(NIRS)は、ベッドサイドでリアルタイムの計測が可能な新しい脳機能イメージング法であり、"マインド/ブレイン-ヒューマン・インターフェース"に適切な計測技術と思われる。NIRSは外側に面する大脳皮質しか計測することができないが、外側前頭前野は扁桃体や前帯状回など感情生成に重要な領域からの入力を受けており、近年、感情制御の場としても注目されている。また、前頭極は、自身の考えや感じを内省評価する時に活動するという説があり、申請者らは先行研究で、前頭極は感情生成の場ではないが、感情誘発に用いた情動画像を見ることによって生じた様々な思考プロセスに関与していることを見出した。今年度は外側前頭前野の感情制御機構における役割をNIRSで検討し、さらにfMRIを用いてその他の脳領域の活動状態も調べた。NIRS計測から腹側外側前頭前野は不快感情生成に関与しており、快感情は外側前頭前野の脳血流低下を伴うことを明らかにした。fMRI計測結果はNIRS計測結果を支持し、さらに扁桃体や前帯状回なども感情生成に関与することを明らかにした。
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