本研究は、言語性コミュニケーションが不可能で、かつ行動や表情からは感情をくみ取ることができない患者のQOL向上を目指して、脳活動計測から快・不快感情を理解することができる"マインド/ブレイン-ヒューマン・インターフェース"の開発を目的とする。近赤外線スペクトロスコピー(NIRS)は、ベッドサイドでリアルタイムの計測が可能な新しい脳機能イメージング法であり、"マインド/ブレイン-ヒューマン・インターフェース"に適切な計測技術と思われる。NIRSは外側に面する大脳皮質しか計測することができないが、外側前頭前野は扁桃体や前帯状回など感情生成に重要な領域からの入力を受けており、近年、感情制御の場としても注目されている。また、前頭極は、自身の考えや感じを内省評価する時に活動するという説があり、申請者らは先行研究で、前頭極は感情生成の場ではないが、感情誘発に用いた情動画像を見ることによって生じた様々な思考プロセスに関与していることを見出した。今年度は外側前頭前野の感情制御機構における役割をNIRSで検討し、さらにfMRIを用いてその他の脳領域の活動状態も調べた。NIRS計測から腹側外側前頭前野は不快感情生成に関与しており、快感情は外側前頭前野の脳血流低下を伴うことを明らかにした。fMRI計測結果はNIRS計測結果を支持し、さらに扁桃体や前帯状回なども感情生成に関与することを明らかにした。一方、視覚野の反応がきわめて強く、知覚刺激の種類と感情に密接な関係があることを示唆された。 分担研究者の京都大学・精山はNIRSを用いた快情報に基づくリアルタイム・バイオフィードバック計測システムを構築し、平成22年7月9日~8月22日まで京都国立近代美術館において鑑賞者参加型の研究展示を行い787名の一般参加者の協力を得て、「音」や「光」に対する「快」を作り出すための情動計測に成功した。(読売(2010年7月3日夕刊)と日本経済新聞(2010年8月4日夕刊))。なお、fMRIでは上記研究を行うための予備実験として星らの提唱する前頭葉の快・不快検出部位が正しいことを確かめた。
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