本研究は、言語性コミュニケーションが不可能で、かつ行動や表情からは感情をくみ取ることができない患者のQOL向上を目指して、脳活動計測から快・不快感情を理解することができる"マインド/ブレイン-ヒューマン・インターフェース"の開発を目的とする。近赤外線スペクトロスコピー(NIRS)は、ベッドサイドでリアルタイムの計測が可能な新しい脳機能イメージング法であり、"マインド/ブレイン-ヒューマン・インターフェース"に適切な計測技術と思われる。NIRSは外側に面する大脳皮質しか計測することができないが、外側前頭前野は扁桃体や前帯状回など感情生成に重要な領域からの入力を受けており、近年、感情制御の場としても注目されている。また、前頭極は、自身の考えや感じを内省評価する時に活動するという説があり、申請者らはこれまでのNIRS研究から腹外側前頭前野が不快感情の生成制御に関与していることを見出した。今年度は、fMRIを用いてその他の脳領域の活動状態も調べ、扁桃体・視覚野・外側前頭前野では、脳活動と感情価との間に負の相関が認められ、また、右側BA47がこれらの領域に対して不快感情表出の完全媒介領域であることを明らかにした。従って、腹外側前頭前野は不快感情の生成制御部位であると考えられた。一方、快感情については、NIRSでは左背側前頭前野で血流減少が認められたが、fMRIでは特異的な脳活動変化が検出されなかった。しかし、MEGを用いて直感的に生じる快感情に関与する脳領域の検出を試みたところ、眼窩前頭皮質が関与していることを突き止めた。 分担研究者の陳グループは、NIRSを用いた別の先行研究での結果に基づいて、小児における感情研究としてまず行動指標の解析を行った。精山グループは、音や光に対する快を作り出すためのバイオフィードバックシステムを構築し、NIRSが画像認識における強い快・不快の情動検出だけではなく、音や光といった抽象的な刺激による情動変化の検出にも適用しうる可能性があることを見出した。
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