研究課題
人間知性の根源である社会的知性を実現する脳機能の解明は、脳科学の重要な研究目標である。この目標に向け、本研究は、他者を勘案する社会知性と意思決定の脳メカニズムの数理モデル構築と、その仮説の実験検証を目的とする。そのために、「理論」と「実験」-----「脳の一般化価値意思決定の数理理論」と「fMRIでの検証実験」-----の融合研究を推進する。「目的I:一般化価値意思決定の数理理論と、それに基づく脳数理モデル構築と仮説の提唱」では、「脳内時間を反映する強化学習モデル」の研究を推進した。我々は、実験の観測が使う時間(通常時間)と区別して、脳内の時間過程(内部時間)に基づき、脳の内部時間を直接モデル化の対象にする新しい強化学習理論を提案した。例えば、観測者・実行者の各々の立場により、「時間割引課題などで異なる合理性が存在する」が示され、またセロトニン神経活動が脳内の価値評価の時間過程を直接修飾するという新仮説を提案した。「目的II:そのモデルと仮説を、非社会的意思決定(NVDM)と社会的意思決定(SVDM)を共通に調べられる実験課題による検証」では、その第一歩として、「他者の価値意思決定をシミュレーションするための報酬予測誤差信号」の研究をfMRI実験とmodel-based analysisと呼ばれる計算論的方法論に基づいたデータ解析を組むあわせることで推進した。「他者の報酬予測」を予測する脳機能は、社会的脳機能の基礎である。この他者報酬予測と、自らの報酬予測の二つの機能がどのように関係しているのか、強化学習の理論をもとにして解明しようとしている。現在のところ、他者の報酬予測誤差信号は、自身の報酬予測誤差信号を一部利用しつつも、別経路の報酬予測誤差も利用していることが示されている。今後、この結果を定量的に評価していくことが重要であると考えている。
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シリーズ脳科学 第1巻 脳の計算論(東大出版会)
ページ: 159-221