研究概要 |
転写因子Runx1とRunx3の神経発生における細胞増殖、ニューロンへの分化、軸索投射路の形成における機能解析を行ない、以下のことを明らかにした。1.Runx1は末梢神経系と中枢神経系に発現する。Runx1遺伝子欠損マウス(Runx1-/-)の脊髄神経節(DRG)では胎生12.5日(E12.5)でニューロンのマーカー(NeuN、Islet-1、Hu)を発現する細胞がコントロールと比べて減少していた。しかし、caspase3陽性細胞数に変化が見られなかったため、ニューロン数の減少はアポトーシスによるものではないことが示唆された。それに対し、BrdUの取り込みがRunx1-/-では増加していた。従って,Runx1は細胞増殖を抑制し、ニューロンへの分化を促進する機能を持つことが示された。2.Runx1は中枢神経系にも発現するため、その発現部位について発生段階を追って解析した。その結果、E10.5の脳幹の外套層でRunx1陽性細胞が帯状に分布していた。その後、三叉神経運動核や舌下神経核などに発現が認められた。舌下神経核ではRunx1とカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)が相補的に発現するため、Runx1がCGRPの発現を抑制する可能性が示唆された。しかし、Runx1-/-でCGRP陽性細胞数に変化が認められなかったため、Runx1が単独でCGRPの発現を抑制する可能性はないと考えられる。3.Runx3の三叉神経節の発生における機能についてRunx3-/-を用いて解析した。Runx3-/-ではTrkB陽性ニューロンが増加し、TrkC陽性ニューロンが減少していた。軸索投射を調べたところ、末梢では鼻部洞毛外根鞘メルケル細胞へ、中枢では三叉神経脊髄路核中間亜核へ投射するTrkC陽性線維が消失していた。以上から、Runx3は三叉神経節では機械受容性ニューロンの分化と軸索投射に必須であることが示された。
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