研究概要 |
哺乳類に特異的な蛋白質であるNecdinを中核とする蛋白質ネットワークとして、エネルギー代謝やDNA損傷応答に関与する蛋白質脱アセチル化酵素Sirt1-基質蛋白質系とSMC5/6複合体系を中心に研究した。平成23年度はネットワーク形成の機能的意義に焦点を絞って研究を進めた。NecdinはSirt1によるFoxO1の脱アセチル化を促進するため、Necdin遺伝子変異マウスでは視床下部弓状核に存在するニューロンにおいてFoxO1のアセチル化レベルが有意に増加していた。これに伴ってFoxO1の下流にあるエネルギー代謝調節に関与する神経ペプチド遺伝子の発現増加が見られた。そこで、Necdin遺伝子変異マウスにおけるエネルギー代謝関連因子の変化を調べたところ、甲状腺刺激ホルモン遊離ホルモンニューロンの抑制を介した中枢性甲状腺機能低下症が認められた。次に、マウス脳においてNecdinがSMC5/6複合体の構成要素であるNse1とNse4の両者に結合して三者複合体を形成することを確認した。また、Necdin遺伝子変異マウスから調製した大脳ニューロンではDNA損傷応答としてDNA修復活性が有意に低下していた。これと同様の現象は、Nse4の発現をRNAiによって抑制したニューロンにおいても見られた。したがって、NecdinはNse4と複合体を形成することでDNA修復を促進するものと推定される。これらの研究によって哺乳類ニューロンに内在するNecdinが、Sirtl基質蛋白質やSMC5/6構成要素など多様な蛋白質と結合することによって、生体のエネルギー代謝やDNA修復に関わる蛋白質ネットワークを形成し、ニュ,ーロンの生存維持に働いていることが明らかになった。これらの知見は、種々の脳発達疾患や神経変性疾患の分子的基盤を知る上でも重要なものと考えられる。
|