研究概要 |
1.小胞体関連分解(ER-associated degradation : ERAD)は,小胞体の変性タンパク質を小胞体から細胞質に排出し,ユビキチン-プロテアソーム系により分解する小胞体ストレスに対する防御機構である.ERADに関与するユビキチンリガーゼHRD1は,アルツハイマー病(AD)の原因タンパク質β-amyloid(Aβ)の前駆体タンパク質(amyloid precursor protein : APP)をユビキチン化し,分解促進することで,Aβの産生量を低下させる.また,HRD1の発現抑制は,APPの蓄積とAβの産生増加をもたらすとともに,小胞体ストレスと神経細胞死を誘発することをこれまで明らかにしている.今回私たちは,APPの分解に関与するHRD1以外の新規ユビキチンリガーゼとしてRNF19Bを見出し,RNF19BがAPPをユビキチン化,分解促進することを明らかにした.一方,RNF19Bを発現抑制した場合,HRD1と同様にAPPが蓄積し,小胞体ストレスが誘発されたものの,HRD1とは異なり,Aβの産生は低下し,アポトーシスは惹起されなかった.今後は,RNF19BのAβの産生機構について明らかにし,AD治療薬のターゲットとなり得るか検証したい. 2.siRNAを用いてHRD1を発現抑制すると,同じくERADに関与するユビキチンリガーゼで,家族性パーキンソン病の原因遺伝子の一つであるあるParkinの発現が誘導された.ことから,HRD1が関与するタンパク質分解に関して,Parkinが代償的に働いている可能性が示唆された,一方,AD患者の大脳皮質においてHRD1のタンパク質量が減少していることから,AD脳においてParkinの発現誘導が認められるか検討したところ,Parkinの発現量は健常者と差がなかった.このことから,AD脳においてはParkinの代償機構は機能していないことが示された.今後はさらに,HRD1ノックアウトマウスにおいて,Parkinの発現誘導について検討し,ADにおける神経細胞死にParkinの代償機構の喪失が関与するかを明らかにする予定である.
|