海馬苔状線維シナプス前部における細胞内カルシウムストアの役割について解析するために、単一終末レベルないし単一軸索レベルでの苔状線維シナプス前部でのカルシウムイメージング法の開発を目指した。近赤外線微分干渉(IR-DIC)顕微鏡を用いてマウス海馬スライス標本の苔状線維軸索の走行するCA3野透明層を観察すると、3ないし5ミクロンほどの構造が観察される。これらの構造に直視下に、膜透過型蛍光カルシウム指示薬であるOregon Green BAPTA1を含むガラス微小電極を接触させ、1ミリ秒ほどの電気パルスを短時間に繰り返し(50ヘルツ、1秒ほど)与えることによって、速やかに苔状線維終末(シナプス前終末)及び連続する苔状線維(軸索)様の構造が簡便に蛍光標識可能であった(単一神経終末エレクトロポレーション法)。ただし、IR-DICで視認できるのはスライス表面に近い苔状線維終末に限られるため、起始細胞である歯状回までを連続して標識することは多くの場合困難であった。また、単一神経終末内の細胞内カルシウム放出の局在を同定するために、現有する共焦点顕微鏡に中間変倍レンズを取り入れることで、蛍光像の空間分解能をあげることができた。そこで、苔状線維入力に高頻度刺激を与えた際の蛍光シグナルと、阻害濃度のリアノジン投与により細胞内カルシウム放出を阻害させた際の蛍光シグナルの差分を取ることで、細胞内カルシウム放出の局在性に関する解析を引き続き進めている。特に免疫組織学的に同定した軸索内リアノジン受容体がカルシウム放出に寄与するかに注目して解析を行っている。
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