研究課題
我々は、負荷軽減によってもたらされる筋萎縮に、神経型一酸化窒素合成酵素(neuronal nitric oxide synthase(nNOS))が深く関与していることを明らかにした。すなわち、マウスの尾部懸垂時に筋細胞膜から遊離したnNOSは細胞質に移って一酸化窒素(nitric oxide:NO)を産生し、Forkhead box O(Foxo)転写因子のリン酸化を阻害してE3ユビキチンリガーゼの発現を活性化することにより、プロテアソーム系を活性化し、筋タンパク質の分解を促進して、筋萎縮を招いていた(Suzuki N.et al.,J. Clin. Invest.,117,2468-2476,2007)。本申請では、1)マウスの尾部懸垂時にnNOSが活性化されるメカニズムを解明し、2)活性化されたnNOSの標的分子を探索し、Foxoの活性化メカニズムを検討する。3)更にnNOSが筋萎縮で活性化されるオートファジー(自己消化)によるタンパク質分解にも関与しているかをモデル動物を用いて検証する。nNOSが筋萎縮を誘導する分子メカニズムを解明できれば、廃用や不動化による筋萎縮のみならず、疾患(癌、感染、慢性疾患に伴うカヘキシア、筋ジストロフィー等)や老化(サルコペニア)に伴う筋萎縮を阻止あるいは軽減させる治療法の開発に発展すると期待される。ところが、研究を進めるうち、nNOSは筋萎縮のみでなく萎縮からの回復および筋肥大を制御していることが明らかになった。骨格筋筋肥大におけるnNOSの機能を明らかにする為、共働筋切除を行い、メカニカルストレスによる筋肥大誘導モデルを用いた結果、nNOSはメカニカルストレス直後に活性化された。メカニカルストレス直後に活性化されたnNOSは活性酸素産生酵素であるNADPH oxidase 4(NOX4)によって産生された活性酸素と反応することにより、peroxynitriteとして働くことがわかった。またnNOS欠損型マウスおよびperoxynitrite消去剤投与群では、メカニカルストレス後に起こるmTORの活性化が起こらなかった。これらの結果から、過負荷後に産生されるNO/peroxynitriteが、筋肥大を促進する分子であることが明らかになった。この成果は、今後、nNOSINOを出発点としながらもperoxynitriteの制御を視点とした、新たな筋萎縮防止・筋肥大促進薬の開発に繋がる可能性がある。
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