研究課題
HIV-1はヒトとチンパンジーにしか感染しないことから、サル免疫不全ウイルス(SIV)とHIV-1のゲノムの一部を組換えたサルヒト免疫不全ウイルス(SHIV)がエイズのモデル系として使用されてきた。これまでに作製されたSHIVは分子クローン由来であるが、HIV-1は元来、多様性を保持した変異集団であり、このことがウイルスの適応度を高める要因の一つと考えられる。また、HIV-1の感染にはCD4の他にケモカイン受容体が必要であり、CCR5を利用するR5型ウイルスが、感染伝播と感染個体内での病態に重要なウイルスと考えられるが、既存のSHIVはCXCR4を使用するX4型ウイルスが多かった。一方、全ゲノムの93%がHIV-1で構成されサルに感染しうるHIV-1-NL-DT5Rが足立らによって構築されたが、このウイルスはX4型であり、サルにおける増殖能はまだ不十分である。そこで本年度は、サル個体内で馴化させることにより増殖能が向上し、遺伝的多様性を蓄積したR5型SHIV-MK38のenv領域をNL-DT5Rに組み込んだ新規ウイルスDT5R-MK38を相同組換え法により作製した。遺伝子解析を行ったところ、DT5R-MK38の組換えポイントは重複領域内に複数箇所存在し、SHIV-MK38の多様性の一部を保持していた。独立に作製したウイルス間でMK38の多様性の異なる系統を継承することがわかり、それらを混合することにより、元のMK38の遺伝的多様性を再構築できるものと考えられた。このウイルスをアカゲザルの末梢血単核球(PBMC)を用いて順化を試みたところ、CD8を除去したアカゲザルPBMCで安定して増殖するようになった。今後、サル個体で高増殖能を保持するウイルスが得られれば、エイズの病原性解明やワクチン、薬剤開発に貢献するものと期待される。
すべて 2010
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (1件)
Vaccine
巻: 28 ページ: 5377-5385
doi:10.1016/j.vaccine.2010.04.110
Virology
巻: 399 ページ: 134-143
doi:10.1016/j.virol.2010.01.008
J.Gen.Virol.
巻: 91 ページ: 773-781