平成21年度の研究目的は、1)行動薬理学的解析によるTRMラットの振戦の評価、2)TRMラットの神経活動部位の同定、3)TRMラット振戦の遺伝様式の確認と遺伝マッピング、であった。 1)4-5週齢のTRMラットに、被検薬を投与し、薬物の投与前および投与後15分、30分、45分、60分の時点で目視による1分間の行動観察を行った。その結果、TRMの振戦は、パーキンソン病性振戦の治療薬trihexyphenidy1では振戦は抑制されなかったが、ヒト本態性振戦の治療に有効とされるβ受容体遮断薬propranolol、ベンゾジアゼピン作動薬diazepam、抗てんかん薬phenobarbita1に抑制された。 2)4-5週齢のTRMラットと対照系統であるWTCラットから麻酔下にて脳を摘出し、免疫組織学的手法により、前脳から脳幹部位にいたる脳部位におけるFos免疫陽性細胞数を計測した。その結果、WTCではいずれの脳部位でも顕著なFos蛋白発現は認められなかったが、TRMラットでは、大脳皮質、視床下部、下オリーブ核で有意なFos発現が認められた。 3)TRMとTRMRのF1は振戦を示さなかった。そこで、F1ラットをTRMラットに戻し交配し、154頭の分離交雑子を得た。そのうち76頭が振戦を示し、78頭が振戦を示さなかった。振戦の有無は、第2番染色体上に位置するD2Rat194と有意に連鎖していた。 以上、薬剤反応性からTRMラットは、ヒト本態性振戦のモデル動物としての有用であることが確認できた。また、TRMラットの振戦の発現には、大脳皮質、視床下部、下オリーブ核の神経活動が関与していることが示唆された。さらに、TRMラットの振戦の発現に係わる遺伝子(trm2)は、第2染色体上の劣性遺伝子であることが示された。 TRMラットの振戦発現には、これまで知られていたtrm1(第10染色体にマッピング)に加え、trm2が必要であることが判明した。本研究結果は、ヒト本態性振戦についても、複数の遺伝子変異が必要であることを示唆するものであり、実体が不明であったヒト本態性振戦の遺伝的要因の解明につながると期待できる。
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