研究概要 |
Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)は,ジストロフィン遺伝子変異によりジストロフィンが欠損により発症し,全身の骨格筋・心筋に障害を来す致死性疾患である.筋ジストロフィー犬(筋ジス犬)はDMDに最も類似したモデル動物であるが,出生直後の血清CK値が極めて高く,新生仔期の死亡率が35%と重症である.原因として娩出によるストレスの関与が指摘されてきた.そこで,帝王切開を導入して自然分娩と帝王切開の比較,及び臍帯血と呼吸開始前後の血清CK値の比較したところ,筋ジス犬では呼吸開始による横隔膜に機械的負荷がかかるため急性の筋傷害を生ずることが分った.また,筋ジス犬の横隔膜が機械的負荷に脆弱である機序については,ミオシン分子種の発現解析から筋ジス犬と正常犬では他の動物種に比べて骨格筋の成熟が遅れていること,ジストロフィンの欠損の際に代償性に発現するユートロフィンが新生仔筋ジス犬の横隔膜に発現していないために,呼吸開始による機械的負荷に抗せないことを明らかにしてきた.当該年度ではマイクロアレイを用いて呼吸前後で発現が変化する分子について検討した.その結果,呼吸前の筋ジス犬の横隔膜では,壊死前からオステオポンチンが著明に増加すること,呼吸開始後では即初期遺伝子であるc-fosやegr-1,その下流分子であるIL-6やIL-8が著明に増加していることを明らかにし,タンパク質レベルでの増加の確認と局在についても検討した.これらのサイトカイン・ケモカインが筋傷害の重要な分子である可能性があることから,ステロイド剤(デカドロン)を分娩直前の妊娠犬に静脈投与し,出生直後の筋ジス犬の血清CK値を経時的にフォローしたが,現在のところ有意な改善は見られていない.引き続き,分子を標的にした治療の可能性について検討を行う.
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