研究概要 |
本年度は、Pd-5at%Ni水素貯蔵合金を用いて,以下の3課題について研究を行った。 (1)生体内への挿入および表皮貼付を想定した、針状試料(直径1mm、長さ5mm)を作製し,生体細胞への水素放出実験を行った。Pd-Ni系HAS針状試料からの放出水素は、試料側部から2~3mmの範囲において癌細胞に対して選択的な死滅効果を示すが、水素放出が小さな針の先端部の死滅範囲は小さくなることが確認された。また、Pd-Ni系HSAは培養液中において水素吸蔵試料は短期間での浸漬では殆ど溶出しないが、約半年の浸漬でppmオーダーのPdとNiが溶出することがわかった。 (2)薬剤としての注射針による患部への注入を想定した粉末状試料(粒径10-20μm)の作製法を検討した結果、水アトマイズ法は高価な素材を使用するため効率が悪いことが分かり、機械的な研削法を採用して粒径10-20μmの粉末を得た。粉末試料においても癌細胞死滅効果が確認され、死滅範囲は試料配置領域に対応することがわかった。また、Pd-Ni系HSAにおいてNiの添加量を調整することで水素ラジカル、水素ガス、水素イオンの放出挙動をコントロールすることが可能であるが、水素ガス放出速度と水素イオン濃度は死滅効果に殆ど寄与しないことがわかった。 (3)癌死滅機構解明のための研究においては合金表面からの放出水素ラジカルの定量測定ならびにESR等を使った培養細胞中での発生ラジカル種の同定実験等を行った。ESR実験から、HASを配置した水溶液中において水素ラジカルとヒドロキシラジカルの存在が同定された。また、蛍光試薬法により、癌細胞中においては過酸化水素の発生が検出されたが正常細胞では検出されなかった。これより癌細胞の死滅にはこれらの水素種が関与していると推察された。
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