動物実験の代替や人の前臨床試験の新しい手法として、本研究は、肝細胞のみではなく、内皮細胞等と構造を構築した肝組織によるマイクロ培養装置を開発することが目的である。平成22年度では、実用化を踏まえ、肝代謝に関わる物質の効果についてマウス細胞の肝組織で調べ、さらに、ヒト肝組織構築を検討した。 第一に、マウス初代肝細胞、内皮細胞株とバイオマテリアルの3者の組み合わせにより再構築した肝組織(類洞様構造)システムを応用して、解熱剤であり大量摂取すると肝毒性を示すアセトアミノフェンによる反応を観察した。マウスを用いた肝障害も確認し、マウス個体同様に我々の初代培養肝細胞の肝組織を用いた系では肝毒性が通常の初代培養法に比べて顕著に高いことが分かった。 第二に、マウス肝門脈を結紮することにより肝前駆細胞の樹立に成功したが、ラミニンや増殖因子含有培地が高価なため、安価に培養・増殖できるように工夫をおこない、成功した。 第三に、ヒトiPS細胞から肝様組織を誘導する手法をヒトES細胞にも応用し、ヒトES細胞から肝細胞への分化誘導に成功した。現在、肝機能や遺伝子発現の確認をおこなっている。 第四に、これまでのシングルチャンネルマイクロ培養装置を4流路に設計し、実際にPDMSにより作製し、肝細胞培養として利用できることを確認した。 これらの成果により、ES細胞、iPS細胞、肝幹細胞を用いて肝組織を構築することに成功し、薬物代謝の系も確立できた。また、マイクロ培養装置による高肝機能も確認されたことにより、最終年度に薬物代謝試験への実用化の道筋を明確にしたいと思っている。
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