ウイルスに対する静電誘引力を持ち、吸着したウイルスを不活性化させるため、水酸アパタイトナノ結晶(HAp)及び300℃で100V/cmの電圧によってエレクトレット化したHApを用いて、電気泳動堆積法により金表面に結合させたセンサを作製した。ウイルス表面にはタンパク質や多糖類などが存在することから、蛋白質や多糖類とHApとの相互作用を解明した。エレクトレット化によるHApに対するタンパク質の吸着量には殆んど差が観測されなかった。さらに多糖類は殆んどHAp表面に結合しなかった。繊維芽細胞等の株化細胞を用いた測定結果及びバキュロウイルスを用いた測定結果からも、エレクトレット化による吸着量・挙動の変化は観測されなかった。しかし、HApとポリスチレン表面においてはバキュロウイルスの吸着量が異なり、約3倍高い値(135Hz;15MHz周波数)、すなわち静電誘引力を示した。この吸着量の違いを明らかにするため、ファイブロネクチン、アルブミン(BSA)、ウシ血清蛋白質や蛋白質二成分系溶液などを用い、リン酸緩衝溶液または細胞培養液中でのHAp表面への吸着挙動を表面プラズモン共鳴法(SPR)と水晶振動子マイクロバランス法(QCM)を用いて解析を行った。その結果、BSAや免疫グロブリンが共存する場合、BSAのカルボキシル基やイミダゾール基が表面のカルシウムサイトと反応し、さらに免疫グロブリンが表面のリン酸基と反応することを明らかとした。さらに、これら蛋白質の初期の結合が細胞(肝細胞・繊維芽細胞・骨芽細胞)の形態や機能に影響を与えることを定量的に明確にした。以上の結果から、ウイルスフィルタとしての応用はエレクトレットHApだけでなく、純粋なHApでも静電誘引力があるが、ウイルスを不活化させるにはさらにHAp表面のウイルス不活化物質の探索が必要である。
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