本研究は、歯科医療に貢献する高精度顎運動解析システムを開発することを目的とする。この高精度顎運動解析システムは、顎関節症の診断に有用な顎運動の動態観察だけでなく、咀嚼時における歯列の動的な噛み合わせ状態も解析可能な診断支援機能を備えるものである。顎関節症の診断・治療だけでなく、歯科矯正時の咬合状態の診断・治療にも有用なシステムの実現を目指す。平成22年度は、治療効果の追跡を可能にする再現性の高い顎運動測定手法を確立するとともに、咬合状態を評価可能なアルゴリズムについて考察した。個体別顎運動表示システムでは、対象者の形状モデルと顎運動を統合するためには、標識点の付いたフェイスボウを一緒にX線CT撮影することが必要である。診断が1回で済む場合は問題ないが歯科矯正のように治療効果を長期にわたって確認する必要がある場合は、X線撮影をそのたびに行うことはできず、診断への適用が難しかった。そこでまず、顎運動測定については、初回時のフェイスボウを装着した状態で正面および側面からデジタルカメラで同時撮影し、次回以降の画像と比較し、装着位置を計算機上で補正するアルゴリズムを考案した。また、咬合印象を利用し高精度な歯列模型で上下歯列の咬み合わせ位置を校正するアルゴリズムを開発した。次に、咬合状態の評価については上下歯列面の干渉状態をチェックする評価量を定義し、干渉の度合いを定量化する手法を開発した。以上の手法により、これまで評価できなかった歯列の咬合状態を把握できるようになった。さらに、フェイスボウについても顎運動測定時に振動を抑制する形状デザインの検討を行った。
|