研究概要 |
生活習慣病の罹患増や人口の高齢化と相俟って,動脈硬化性疾患の診断と治療に関する一層の発展は求められている.大血管または中サイズの血管に対する検査法については幾種かが医療の現場に登場してきている.しかし,動脈硬化と関連する血管病態は細動脈あるいは毛細血管にも存在し,これらへのアプローチは新たな情報を与える可能性があると考えられながらも依然として未開である.こうした背景を踏まえ,本課題では特に毛細血管に焦点を当て,その定量的かつ低侵襲性の評価法の開発とその臨床的意義の確立を目指している.我々は,ヒトの指先の加圧過程で,発光ダイオード(LED光)を用いて血管内ヘモグロビンの量(指尖流動性)を検査することが新たな動脈硬化関連指標となり得る可能性を予見してきたが,本年度においては,まず指尖流動性の評価装置(指尖加圧型センサー付き生体透過光照射器)の開発に着手した.本装置の試作を繰り返し,被験者のモニターを経て複数台を作成した.次いで,健常者集団(30人)において,同装置による指尖流動性指標の再現性と測定条件の妥当性を調べ,臨床現場で血圧を測定する際に準じた安静座位を基本として,測定値が5%未満の変動係数を示すことを確認した.さらに装置間における測定値の格差もないことを確認した.これらの結果は本装置による指標が安定しており,臨床的応用が可能であることを示唆した.加えて,生活習慣病の一つである2型糖尿病患者群(28人:平均年齢57歳)において,性別・年齢をマッチさせた健常者(10人)と比較したころ,指尖流動性指標は有意に低い値(指数:糖尿病群0.25±0.16対健常群0.45±0.21;p<0.05)を示した.この臨床的意義については,今後,多数の被験者を得て,また他の生活習慣病との比較検討を行って究明を進めるように計画している.また実地適応を展望して,機器の小型化などのさらなる改良も次年度以降に予定している.
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