研究概要 |
動脈硬化性疾患の診断と治療に関する一層の発展は求められている.大血管または中サイズの血管に対する検査法については既に医療現場に登場してきている.しかし,動脈硬化と関連する血管病態は細動脈あるいは毛細血管にも存在し,これらへのアプローチは新たな情報をもたらすと考えられながらも未開の領域である.本研究課題では,特に毛細血管に焦点を当て,その定量的かつ簡易で低侵襲性の評価法ならびにこれを具現化した検査装置の開発とその臨床的意義の確立を目的にしている.前年度に引き続き,ヒトの指尖を加圧し,発光ダイオード(LED光)を用いて血管内ヘモグロビンの量(指尖流動性)を検査する装置(指尖加圧型センサー付き生体透過光照射器)の開発(改良)を進め,評価パラメータをさらに作成した.本年度は,特に臨床応用の視点から,生活習慣病の一つであり,かつ末梢血管病態を来たして生活の質を低下させやすい糖尿病における評価パラメータの意義に関する検討を行った.すなわち,糖尿病患者群(全210人,男女127対83人:平均年齢58歳)について,同装置を用いてvelocity pressure index(VPI)を測定し,臨床的な動脈硬化危険因子との関連について調査した.本患者集団のVPI(0.23±0.13)は健常群(0.45±0.21)に比べて有意に低い値を示した.VPIを従属変数にした多変量重回帰分析を行ったところ,年齢(係数0.27,p<0.01),体格指数(係数0.16,p<0.05),中性脂肪(係数0.22,p<0.05)と有意に正相関した.これらは糖尿病における末梢血管病態の促進因子である可能性があり,指尖流動性指標が同病態の診療に活用できる可能性も示唆された.さらなる検討の蓄積は必要だが,装置と測定値の安定性ならびに簡便性や低侵襲性も加味し,これまでの成果を踏まえると臨床現場での適応は期待される.
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