本研究の目的は、両側分離型トレッドミル(Split Belt Treadmill)を用いて、足部への荷重を変化させる、または足部に外乱を加えることで、歩行の外乱に対する、転倒回避の身体ストラテジーを神経生理学的および運動学的に解析することである。昨年度はその基礎的実験として立位での足部への外乱に対する生体の反応を筋活動を中心に検討した。本年度は立位での外乱に対して生じるステップ反応について高齢者と若年者との比較を行った。 高齢者5名、若年者5名に対しトレッドミル上静止立位中に両脚、または片脚に予期せぬタイミングで外乱を与え、ステップ反応を計測した。床反力計にて足圧中心(COP)を、三次元動作解析装置にて身体重心(COM)を計測した。 結果、ステップ脚の足離地前にCOPがステップ脚側に1cm以上移行する予測的姿勢調節(APA)が高齢者の35%、若年者の29%に見られた。高齢者でもAPAがあれば、ステップ中のCOMは若年者と同じレベルに保たれたが、高齢者でAPAがない場合は他に比べてCOMが有意にステップ脚側に移行し、その移行速度も大きく、より側方(ステップ脚側)へ接地した。高齢者ではステップ時の側方安定性にAPAが大きな役割を果たしていることが示された。 ステップ時の側方の安定性と転倒との関連は以前より指摘されており、高齢者でAPAをしっかりと行わせるような方策があれば、転倒リスクを減らすことが出来ると考えられた。この結果は第47回日本リハビリテーション医学会学術集会、第40回日本臨床神経生理学会学術大会において発表した。
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