【背景】杖により歩容やバランスが改善すると報告されているが、医療者への相談や訓練無く使用し、適切に使えていないケースも多い。バランスを乱された際には、杖があることでステップ脚が杖と衝突する、側方ステップ長が短くなり基底面の確保が障害される、リーチ&グリップ出来ずに転倒するなど、杖そのものが転倒リスクを高める可能性も指摘されている。これらの外乱の研究は立位外乱によるものであり、杖歩行中に外乱を与えた報告は見られない。そこで、歩行中に杖を使用することが外乱時の反応にどのように影響するのかを検討した。 【方法】健常若年男性5名。両側分離型床反力計付トレッドミルを用い、歩行中に踵接地と同時にベルトが停止する模擬スリップ外乱を与えた。素手歩行と右手T字杖歩行で左右それぞれ5回ずつランダムな順序で外乱を与え、三次元動作解析装置にて計測を行い左外乱時の反応を比較した。 【結果】今回の外乱では身体が後方へ投げ出されるようにバランスが崩れる。C7マーカーの比較ではその最大速度が素手では358mm/sであるのに対し杖では413mm/s、加速度は2611mm/s2に対し3158mm/s2と有意に増大した(p<0.05)。一方で杖の把持により右手の速度、加速度は有意に低下した。 【考察】重量物である杖を前方に把持しているため有利のようにも思えるが、上肢の挙上が制限され、体幹の後方への速度、加速度は増大した。健常若年者でもこの様な結果であることから、高齢者や障害者では杖を持つことにより後方への転倒リスクが増える可能性があり、適正な評価と処方が重要であると考えられる。
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