本研究では、運動後に生じる遅発性筋肉痛の程度や筋の機能変化が運動時の筋線維の長さや速度に依存する可能性を検証した。健常成人の前脛骨筋を被験筋として、筋長を変えて伸張性の随意最大足背屈動作を行った際の最大足関節背屈トルクの低下率やピークトルク角度のシフトの程度に有意な差を検討した研究では、双方ともに有意な差が認められなかった。健常成人の下腿三頭筋を被験筋とした研究では、運動直後から数日間の遅発性筋肉痛の程度、血液中の筋損傷マーカーの量、足関節可動域の低下率、等尺性最大足関節底屈トルクの低下率に動作速度の影響は認められなかった。よって、遅発性筋肉痛の程度や筋の機能変化は、運動時の筋線維の長さや速度に依存しない可能性が示唆された。さらに、等尺性収縮を繰り返して筋疲労が生じた際には、腓腹筋は収縮できなくなり筋線維長が長くなるが、ヒラメ筋の筋線維長は変わらず、筋疲労時の筋腱動態の変化は筋ごとに異なることが示された。一方、カーフレイズ運動などの動的な運動では、筋疲労が生じたにもかかわらず、同じ関節角度に対する筋線維長が筋によらず長くなった。しかし、動作速度が高くなると、関節の機械的仕事量は同じであるにもかかわらず、筋疲労の程度が少なく、同じ足関節角度に対する筋線維長が変化せず、筋疲労の程度と筋腱動態の変化には、動作速度依存性がみられないことが明らかとなった。また、協働筋のうち一つの筋を疲労させた状態で等尺性足関節底屈による筋力発揮を行った際には、発揮筋力と腱の伸張が必ずしも一致しないことが示された。以上のことから、筋疲労による筋腱動態の変化は、筋疲労の程度や筋によって異なることが示唆された。遅発性筋肉痛や筋損傷マーカーなどに動作速度による違いについて検討することが、今後の研究課題である。
|