本年度は、運動後に生じる遅発性筋肉痛の程度や筋の機能変化が運動時の動作速度および動作負荷に依存する可能性を検証した。健常成人の下腿三頭筋を被験筋として異なる動作速度および動作負荷で運動を行った際の遅発性筋肉痛は、運動後2~3日目にピークとなり、動作速度および動作負荷間で違いは認められなかった。また、血液中の筋損傷マーカーはいずれの動作条件においても4日目にピークがみられ、等尺性最大足関節底屈トルクは、運動直後のみ有意に低下し、1日後から7日後は運動前と有意差はみられず動作速度間・動作負荷間で違いが認められなかった。よって、遅発性筋肉痛の程度や筋の機能変化は、運動時の動作速度や動作負荷に依存しない可能性が示唆された。さらに、カーフレイズ運動などの動的な運動中では、遅い動作速度条件で筋疲労が生じた際、同じ関節角度に対する腓腹筋内側頭とヒラメ筋の筋線維長が長くなった。しかし、動作速度が高くなると、関節の機械的仕事量は同じであるにもかかわらず、筋疲労の程度が少なく、同じ足関節角度に対する筋線維長が変化せず、筋疲労の程度と筋腱動態の変化には、動作速度依存性がみられることが明らかとなった。一方、等尺性収縮を繰り返して筋疲労が生じた際には、腓腹筋は収縮できなくなり筋線維長が長くなるが、ヒラメ筋の筋線維長は変わらず、筋疲労時の筋腱動態の変化は筋ごとに異なることが示された。また、協働筋のうち一つの筋を疲労させた状態で等尺性足関節底屈による筋力発揮を行った際には、発揮筋力と腱の伸張が必ずしも一致しないことが示された。以上のことから、筋疲労による筋腱動態の変化は、筋疲労の程度や筋によって異なることが示唆された。異なる動作負荷間での筋線維長の比較、等尺性筋力発揮および等速性筋力発揮中の筋活動や筋形状の変化の違いについて検討することが今後の研究課題である。
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