今年度は、体温上昇時における換気上昇反応に関する生理学実験を行っとともに、暑熱下運動トレーニングのコベネフィット効果に関して国際フォーラムを開催し、情報交換を行うとともに運動のコベネフィット効果の評価を行った。実験は、安静状態での体温上昇時における皮膚血流及び脳血流反応に及ぼす自発的過換気の影響について検討し、その結果、安静状態での体温上昇時において自発的過換気に伴う呼吸筋活動亢進とPaCO_2低下は、それぞれ独立して皮膚血管及び脳血管収縮を引き起こすことを明らかにした。国際フォーラムでは、ニュージーランドからWoodward博士、アメリカからMinson博士、日本からは神戸大学教授の近藤徳彦博士らが参加し、活発な意見交換を行った。その内容は以下のようであった。地球温暖化を防ぐためには二酸化炭素を排出しない社会、すなわち、低炭素社会を作る必要がある。Woodward博士の提唱するように、通勤手段を車から自転車に変更することによって低炭素社会へ貢献するだけでなく、自転車運動をすることによる成人病予防効果などのコベネフィットが生ずる。逆に、我々や近藤・Minson博士らの研究から、運動トレーニングは、暑熱耐性自体を向上させる効果があり、このことは、夏期のクーラー設定温度を高める効果が期待され、このこと自体は、低炭素社会に貢献するコベネフィットと考えられる。これらのことから、地球温暖化対策と運動効果は、コベネフィットという概念のもと密接に関係していることがわかった。フォーラムの結論として、地球温暖化や高齢化・高医療費社会を迎えるにあたって、その対抗策としての両者の関係性を今後、マクロ(疫学的視野)とミクロ(生理学的視野)で連携して、さらに検討する必要性が確認された。
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