体温上昇に伴う換気量増加のメカニズムに関して、アルカローシスの影響(実験1)と、概日リズムの影響(実験2)について検討した。 実験1:15分間の最大下の一定負荷自転車運動(120W)を、以下の3条件で行った。(1)運動時に自発的過換気を行うことで呼気終末二酸化炭素分圧(PETCO2)を低下させる条件(HH)、(2)運動時に自発的過換気を行うが、吸気に二酸化炭素(CO2)を加えることでPETCO2を通常時の値に保つ条件(NH)、(3)運動時に自由に呼吸を行う条件(C)その結果、前腕と額の両部位における皮膚血管コンダクタンス上昇の深部体温閾値は、C及びNH条件よりもHH条件で有意に高値を示すか、高い傾向にあった。また、深部体温と皮膚血管コンダクタンスの回帰直線の傾きはC及びNHよりHHで小さくなったことから、アルカローシスにより皮膚血管反応が抑制されることが示唆される。本研究より、暑熱下運動時の高体温が、呼吸性アルカローシスにより体温調節反応が抑制されることで促進されることが示唆される。このことから、過換気が起こらないように換気をコントロールすることでアルカローシスを抑えることは、熱中症や運動パフォーマンス低下を防ぐ上で有効な手段となるのかもしれない。 実験2:安静時深部体温の大きく異なる早朝(6:00)及び夕方(18:00)に、暑熱環境下において、深部体温を低下させてから、中強度(50%VO2peak)負荷の自転車運動を行った。その結果、換気量増加の深部体温閾値は、早朝より夕方で有意に高値を示し、閾値以降の換気感受性は、早朝より夕方で有意に大きかった。これらの結果から、換気亢進の深部体温閾値は、早朝に比べて夕方に高温側へシフトし、また深部体温上昇に伴う換気充進の換気感受性は、早朝より夕方で大きくなることが示唆された。
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