研究概要 |
本年度の研究目的は(1)脊損者の下肢筋肉の萎縮と不随意な痙性との関係,(2)脊損者の麻痺大腿筋及び下腿筋の筋活動,及び(3)ラットを用いた脊損後の筋の生化学的変化を明らかにすることであった。下肢大腿部及び下腿部の筋萎縮状態を明らかにするためにMRI測定を行なった。その結果,すべての脊損者で筋の萎縮は顕著であり,不随意な痙性が起こらない者には明確な筋はほとんど認められなかった。一方,痙性が頻繁に起こる者では比較的残存する筋肉量が多かった。これらの脊損者に対し,脛骨神経を直接電気刺激することにより腓腹筋から筋電図を導出したところ,筋肉が明確に残存している者にのみ筋活動が認められた。脊損後筋萎縮が起こると人為的に神経を刺激しても筋収縮は起こらないことが明らかとなった。脊損後の筋の生化学的変化に関する実験にはWistar系ラットを用いた。これらを実験群とコントロール群に分け,実験群には,胸髄をTh6-12間で切断する手術を施した。術後20日(E-20),40日(E-40)および60日(E-60)に長指伸筋および腓腹筋表層部を摘出した。単位断面当たりの張力は,E-20で17.3%に減少し,以後漸減しE-60では11.2%となった。筋小胞体(SR)は,収縮機能に重要な役割を果たす器官の1つである。SRのCa2+放出速度は,E-20で55.0%, E-40で33.0%, E-60で25.9%に減少した。また,Ca2+取り込み速度も,放出速度をほぼ同様の変化を示した。これらのことから,脊髄損傷による骨格筋の筋力低下に,量的な変化(筋量の低減)だけではなく,質的な変化(細胞内器官の機能の低減)が寄与していること,また質的な変化の1つがSRの機能の低下であることが示唆された。
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